避難所の窓辺には、洗ったばかりの布が干してあった。陽に透ける白さを見ていると、昨夜の黒い糸だけが、まだ指に巻きついているようだった。
トマさんとリナさんが話を聞いてくれるという。エリオットとセラも同席し、私は二人の向かいに座った。
「霧の中で、私はトマさんの袖を縫いました。助けたいと思って、返事を待たずに」
喉が乾く。それでも言葉を止めなかった。
「その糸が黒くなり、切った後も、トマさんはリナさんのことを思い出せませんでした。私が無断で縫ったことと、記憶が失われたことには関わりがあります。ごめんなさい」
トマさんは膝の上で手を組んだ。リナさんは私を見て、それから父を見た。
「父を助けようとしてくれたのは、わかる。でも、あなたが縫わなかったら、どうなっていたの?」
「わかりません」
霧がもっと深く彼をさらったかもしれない。別の方法が間に合ったかもしれない。どちらかを選んで謝罪の理由にすることはできなかった。
「わからないまま、取り返せないことをしました」
リナさんは目を伏せた。怒っているのか、泣きたいのか、私には決められない。沈黙を埋めたのは、トマさんだった。
「俺はあんたを覚えちゃいない。さっき、この人が娘だと聞いたことも、確かめながらでないと落ち着かん」
リナさんの肩が揺れた。彼は困ったように続ける。
「だが、教えてもらったことを嘘だと言いたいわけじゃない。時間をくれ」
「うん。私も、すぐに平気にはなれない」
二人の間に、今度は私が入らずに待った。
話が終わりかけたとき、セラが立ち上がった。
「私もお伝えしなければなりません。黒い糸が、同意のない縫い目から生まれ、記憶を傷つけることを知っていました。ミオに危険を十分に話していなかった」
彼女の指先は、固く握られていた。
「知っていたのに?」とリナさんが尋ねる。
「ええ。王宮の仕事を守るために、口を閉ざしました。申し訳ありません」
セラは頭を下げた。弁解はしなかった。リナさんはすぐには答えず、窓の布を見た。
「今日は、もう聞くのがつらいです」
「承知しました」
セラが身を引く。私たちは、それ以上許しを求めなかった。
帰り支度をしていると、トマさんが避難所の椅子を指した。座面の布が端から裂けている。
「これ、直せるかい。腕が鈍ってなきゃ、俺にも手伝えると思う」
リナさんが少し驚いた顔をした。
「お父さん、道具は持ってこられなかったでしょう」
「じゃあ、借りようか。あんたも一緒にやるかい」
彼女は迷い、それからうなずいた。
私は針と普通の糸を貸し、布を押さえる役を引き受けた。願いを縫い留める必要のない、ただの修繕だ。リナさんは縫い代を折り、トマさんは節のある指で針を通す。
「ずいぶん目が細かいね」と彼が言う。
「昔、父に褒められたの。……あなたに」
トマさんの手が止まった。リナさんは慌てて笑おうとして、やめた。
「覚えてなくてもいい、とはまだ言えない。でも、今そう言ってもらえて、うれしかった」
「そうか。じゃあ、今日のことは覚えていたいな」
彼はもう一度、針を動かした。失われた雨の日は戻らない。それでも新しい一針が、二人の手の間に増えていく。
作業を終えて外に出ると、エリオットが扉を押さえてくれた。
「椅子は、しばらく持ちそうですか」
「二人の縫い目なら、きっと。……私も端を押さえました」
「それは重要な役目です」
大げさにうなずく彼に、少しだけ笑った。笑ったからといって、私の責任が軽くなるわけではない。明日も二人の望む手助けを聞こうと思った。
そこへ王宮の使者が駆け込んできた。セラは差し出された封書の印を見るなり、顔色を変える。
「宰相からです。王宮の暁布を、至急修繕せよと」
彼女は手紙を閉じ、私を見た。その目には、工房で初めて会った日の厳しさとは別の、切迫した迷いがあった。