王宮へ戻る馬車の中で、セラは宰相の封書を膝に置いたまま、何度も封蝋の欠けた端を撫でた。
「裂け目が、また広がったのですか」
私が尋ねると、彼女はうなずいた。
「今度は奥の層まで。表を縫い合わせるだけでは足りないそうです」
エリオットは向かいの席で手袋を直した。窓から差す夕日が、その白い指先を染める。
「縫い手は何人集められる?」
「呼び出せる者は全員。ただし、奥へ入れる者は限られます」
セラの声が硬い。私が聞き返す前に、彼女は封書をたたんだ。
「ミオ、あなたは工房に来ないで」
「どうしてですか」
「今日、トマさんに話したばかりでしょう。黒糸の危険を、私はあなたに隠していた。あの布には、あなたに説明できていないことがまだある」
彼女は私を見た。
「知らないまま針を持たせたくないの」
それは命令というより、遅れて届いた告白の続きだった。それでも、胸の奥がざわつく。
「危ないなら、なおさら教えてください。私だけ遠ざけても、布の危険はなくならない」
「そうね。でも、今すぐすべてを話す許可は私にはない」
セラは目を伏せた。その答えに腹が立った。誰の許可が、危険を知ることより大事なのだろう。
けれど彼女の手は震えていた。
王宮に着くと、廊下には慌ただしい靴音が響いていた。運ばれていく糸巻きの箱、濡れた布、青ざめた縫い手たち。扉の向こうから、低い唸りのような音が聞こえる。
宰相オルフェンは工房の前で私たちを待っていた。
「異邦人も来たか。手を貸してもらおう」
「ミオは参加させません」とセラが言った。
宰相の眉が動く。
「筆頭縫い手の判断か。王都の結界が揺らいでいるのだぞ」
「だからこそ、危険を知らない者に針を持たせられません。私が責任を持ちます」
「責任で裂け目が塞がるなら苦労はない」
私は一歩前に出た。
「何を縫うのか、何が起こりうるのかを教えてください。私は話を聞いたうえで決めます」
宰相は私を見たが、答える代わりに扉を見た。その向こうで、何かがぶつりと切れる。
「説明している暇はない」
「説明なしに人を使う暇はあるのですね」とエリオットが静かに言った。
二人の視線がぶつかる。宰相は唇を結び、やがてセラに顎をしゃくった。
「外側の補修を急げ。中は殿下にお願いする」
私は王子を振り向いた。
「中?」
「布を支える役目です」と彼は答えた。「縫うのはセラたちです」
その言い方が妙に引っかかった。支えるだけなら、なぜ宰相は最初から彼を待っていたのだろう。
扉が開く。以前見た暁布は、壁いっぱいの朝焼けのようだった。今は淡い光の中央に暗い裂け目が走り、ほつれた糸が水中の草のように揺れている。
縫い手たちが外側に膝をつき、指示を交わした。セラは私の前に立つ。
「ここで待って。裂け目に近づかないで」
「セラさん」
「あなたを疑っているわけじゃない。私が知っている危険だけでも、もう十分なの」
彼女はそれ以上を言わず、針箱を抱えて布のそばへ向かった。私は止める言葉を失った。今日、彼女は知らないふりをしたことを謝ったばかりだ。その人がまた口を閉ざすほどの何が、あの奥にあるのか。
エリオットが私のそばを通り過ぎる。呼び止めると、彼は振り向いた。
「危ないんですか」
「危なくないと言えば、あなたは信じますか」
「信じません」
「困りましたね」
いつもの皮肉に、いつもの余裕が少し足りない。私は彼の手袋を見た。
「じゃあ、無事に戻ってきてください。お願いするだけなら、私にもできます」
彼は一瞬、答えを探すように黙った。
「戻るために、できることをします」
約束とは少し違う返事だった。それでも、彼は私の目を見て言った。
セラが裂け目の端を押さえると、エリオットはその奥へ身を滑り込ませた。幾重もの布が彼の背を隠す。直後、張り詰めた糸がひときわ大きく鳴り、外側の縫い手たちが息を呑んだ。
「今です、縫って!」
セラの声に針が一斉に動く。裂け目はわずかに狭まった。けれど奥から聞こえた短い息に、私は立ち尽くす。
布の向こうにいるのは、修繕の道具ではない。
「エリオットさん!」
返事はなかった。私はセラの制止を聞きながら、暗い布の奥へ踏み出した。